「お父ちゃんは、あと16回正月を迎えたら人生終わりだと思うんや。」
私は父の急な言葉に驚いた。
それまで、親は居て当たり前、親が死ぬなんて考えもしなかったからである。
それは、アメリカ留学から冬休みのため一時帰国していた正月でのこと。
大学生活もあと1セメスター(学期)を残すばかりであった。
「なんで、そんなこと言うん?あと16年たってもまだ82歳やで。
今の時代、まだまだ生きられるんやし
82歳言わんと、90か100まで生きるつもりでおったらええやん。」
その頃、父は健康だったから、
どうしてそんなことを急に言い出すのか理解できなかった。
人生の晩年の一年一年を大切に生るつもりだと
言いたかったのだろうかと無理やり解釈した。
しかし、何か釈然としないものが心に残った。
その1年後、父の膀胱に癌が見つかったと妹から連絡を受けた。
その頃、私はアメリカで働いていた。
私は慌てた。
どうしよう。
父は死ぬかもしれない。
まだ、親孝行なんて何にもしていない。
結婚だってしてないし、孫の顔さえ見せていないではないか。
焦った私は、付き合っていた彼氏に結婚しようと言った。
しかし、まだ彼は学生だったため、あっさりと断られた。
(続く)