帰国する日の朝、空港に行くために6時半に友人のアパートを出た。
大きな通りへの道すがら、何人もの僧が托鉢するのを目にした。
くすんだオレンジ色の衣を身にまとい、黄色い壺を手にかかえている。
足元に目をやると、裸足である。
いつも出掛けるのはもっと遅い時間だったから
早朝に僧が托鉢しているなんてその日まで知らなかった。
タイ人の女の子が言った。
「タイの人は僧に寄付すると天国に行けると信じてるのよ。
だから、皆喜んで寄付するのよ。」
そんな風に徳が貯金できたらいいなと思う。
でも、単純にそう信じられることの強さを思った。
また、或る日、とある寺院に行くと、人の行列に出くわした。
近よってみると、どうやら、僧の出家の儀式のようだった。
大きな傘の下を歩く出家前の白衣をまとった者の後ろに、
その家族や友人と思われる人々が続く。
出家者は寺院の中に入るとしばらくして出てきた。
家族や友人たちは寺院の入口で出家者と写真を撮ったりしている。
まるで、結婚式みたいな祝福ムードがただよっている。
その後、主家者は寺院の入口に立って、
家族に渡された皿に盛られた何かを
寺院前に待っている家族や友人たちに向かって投げ始めた。
その何かはキラキラ空中で煌めきながら、皆の上に落ちていく。
皆、必死にその物体を拾っている。
私も友人も、何だかわからないけれど、人々に交って拾い集めた。
そして、私達まで祝福されたような気持ちになった。
後で友人が言った。
「あ、これ、コインだ。」
コインがひとつひとつ綺麗に布やテープで花のような形に包まれていた。