イタリア映画“Ieri, Oggi, Domani”は、ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが出てくる、オムニバス・コメディ映画です。このブログも昨日(過去)のこと、今日(現在)のこと、明日(未来)のことを書いていきます。

2007年11月4日日曜日

彼岸花(其の二)

その後、労働ビザの申請が間に合わなかったために
私はアメリカから帰国するに至った。
その約一週間後に、父の膀胱摘出の手術が行われた。
膀胱を全摘出し、小腸の一部を使って人工の膀胱を作るという
8時間もかかる大手術であった。

手術は成功に終わった。
糖尿の気があったため、傷口がふさがりにくく
思ったよりも術後の退院が遅れたが、
どこにも癌が転移していないとの医師の言葉にほっとした。
父は退院後に仕事にも復帰した。
「今までは本当に大変やったけど、
 これからは良くなるばかりやから。」と、私は父に言った。

4月から、私は地元を離れて、現在の会社で働き始めた。
癌が転移していたとの連絡を受けたのは
働き出して、2週間ほど後のことだった。
私は、転移していなかったという医師の言葉を思い出し
悔しいような気持ちになった。

抗がん剤治療、放射線治療を受けたにも拘わらず
父の病状は少しずつ、目に見えて悪化していった。
私は無邪気にも7月までは、
父は良くなるのではないかと信じていた。
本人も自分は元気になって家に帰ると言っていた。

「お父ちゃん、秋になったら、一緒に韓国行こう!
 私がご招待するから。」
「おお、それは悪いな。」
そう言いながら、楽しみにしている様子だった。
何回かアジアに行っている母と違い、
父は一度も海外に行ったことがなかったのである。
(続く)