今から2カ月前。
タイに出発前日にGは言った。
「赤い服は着てきちゃダメだよ。」
何を冗談みたいなことをいっているんだろうと思った。
しかも、赤は私が一番好きな色である。
「どうしてよ?」
「明日から反政府デモが予定されているんだ。」
赤い服とはいわゆる'Red Shirts'(赤シャツ)と呼ばれる反政府派。
ちょうど私がバンコクに到着する前日に北部から集まってきた人達だった。
噂では、国外追放中の前首相タクシンから資金がながれているらしい。
タクシンは多額の財産が政府によって凍結されており
その財産を取り戻すため、今回のデモを計画したのだろう。
最初はのんびりした様子だった。
赤シャツはトラックやバイクなどに乗って
赤い旗や手を振ったりして大きな通りを通りすぎていくだけだった。
首相府の前では多くの赤シャツが簡易な小屋を建てていて
しばらくデモを続けるつもりなのだと思った。
2、3日後には、首相を含む政府3名と反政府派3名が会談した。
テレビのニュースに映る会談の様子は信じられないものだった。
小さな机を挟んで向かい合って座る6名は
激昂する様子は全くなく、穏やかに話し合っていたのだ。
さすがに、ほほ笑みの国といわれるタイならではだなぁと感心した。
そもそも、私の常識からして、反政府派と会談すること自体あり得ないことだった。
その後、終わらないデモに、タイ政府は11月に総選挙をすると発表して
赤シャツに大きく譲歩した。
最初から、赤シャツは、現在の政府は選挙で選ばれた政府ではないとして
議会の解散と、総選挙を要求していたのだ。
ところが、欲を出した赤シャツは、それでも尚デモを止めないと発表した。
その後、首相はもう赤シャツとは対話しないとして、11月の総選挙を撤回した。
そして、今回の強制排除へとつながっていった。
銃撃戦が行われたルンピニ公園はナイトバザールが隣接しており、私も買い物に出かけたところだ。
セントラル・ワールドというバンコクで2番目に大きなショッピングセンターはすっかり焼けて無残な姿だという。
シアムという商業地区には、紀伊国屋書店や伊勢丹がはいった、
パラゴンという建物があり、赤シャツによって放火されたそうだ。
「もう、紀伊国屋書店はないなんて。。。」
Gは悲しそうに言った。
日本語の本を買いに行ける唯一の書店だっただけにショックを隠せない様子だ。
私も、一緒にパラゴンに行っただけに、信じられないような気持になった。
今回のデモで、多くのビジネスが影響を受けた。
自分の要求さえ通れば、政府とは何の関係もない人々に迷惑をかけてもよい、
デモの解散に不満だからという理由で、建物に火をつけてもよい、
一体誰が、そんな姿勢の赤シャツを支持するというのだろうか?
一刻も早く、赤シャツが逮捕されて、タイが元のほほ笑みの国に戻ることを望む。